2011年1月6日木曜日

ミクロとマクロの相克

スディール・ヴェンカテッシュ(Sudhir Venkatesh) 著
望月 衛 訳
「ヤバイ社会学 一日だけのギャング・リーダー」
(原題"Gang Lader for a Day:A Rouge Sociologist Takes to the Streets”)

を読了。

 シカゴのスラム街、しかもそこを縄張りにするギャングを中心に黒人貧困層のフィールドワークというのも中々に凄い。

 そういう意味で、エピソード的には非常に興味深い事例が多く、ミクロなレベルでの当事者の視点や生存戦略、福祉を巡る権力闘争など色々と珍しい知見もあった。

 ただ、行政や警察の負の側面を指摘したり、ギャングやコミュニティの肯定的側面を描写したりすることに一定の意義はあるだろうが、貧困や差別といったマクロの問題の解明に、一方の当事者でしかない黒人貧困層のミクロな視点からだけで、どこまで問題解決に切り込めるには疑問を感じた。

 もちろん、従来のアンケート調査に一定の限界があることも、従来の政策が黒人貧困層のニーズと乖離していたことが事実だとしても、黒人貧困層だけではそれらを改善する資源を十分に確保できないのだとするなら、全体社会レベルというマクロの視座なしに、実効性のある代替案を提言できるのか。

 この辺りは、「貧困の文化」といった階級を前提とした分析概念に問題があるとしても、貧困層へのフィールドワークというミクロレベルの分析手法だけではどうにもならない気がする。